日本とドイツのFIT制度

第4回
市民に利益をもたらす再生エネ
~ドイツの成功プロジェクトの現場から

日本再生可能エネルギー総合研究所 代表
株式会社日本再生エネリンク 代表取締役
北村和也(きたむらかずや)
【2014年4月23日】

再生エネで稼ぐ町

写真:ヴィルトポルズリート

[ヴィルトポルズリート]

3度目の訪問も晴れ?

 この町を訪れるときは、いつも天気が良いのです。これはドイツではとても珍しいことです。今回も、3月下旬のこの時期には異例の気温20度超えの晴天が迎えてくれました。ヴィルトポルズリートという覚えにくい名前の町の視察も今回で3回目になります。最初に足を踏み入れたのは2012年の秋、1年半前のことでした。ちょうど、有名なビール祭りオクトーバーフェストの時期で、アルノ町長(姓はゼンゲレーなのですが、町の誰もがアルノと呼ぶので)と何杯ものジョッキを空けたのを思い出します。

 町はドイツ南部のバイエルン州の南西端に位置し、人口およそ2600人、かつて主産業だった酪農に携わるのは今では人口のわずか1割です。今は、近隣も含めた会社勤めが中心です。この小さな町の特徴はなんと言っても再生エネの多岐にわたる有効利用です。  7基12MWにおよぶ風車を中心に、建物の屋上の4MWの太陽光発電、1.5MWのバイオガス発電とその熱を利用した温水供給システム、3基の小水力発電と並びます。陳腐ですが、「再生エネのデパート」との表現がわかりやすいかもしれません。現在、町で消費する電力のおよそ5倍の発電を再生エネで行っています。

写真:市民風車

[市民風車]

キーワードは「町にお金を残す」

 ここで特に注目すべきなのは、これらの発電や熱の事業のすべてが、町の住民か町によって運営されていることです。もちろん、発電された電力は基本的に日本のようにFIT制度で高く買い取られています。これが何を意味するかといえば、売電収入がほぼすべて町の人達のふところに入ってくるということです。まさにこの町は。『再生エネで稼ぐ町』なのです。

 最も町民に利益をもたらしているのが、先に上げた7基の市民風車です。住民の中で立ち上げた事業会社が市民ファンドを組み、銀行からの融資を受けて風車を建設、運営しています。7基の総投資額はおよそ22億円と莫大です。そのうち3割が市民の出資によるもので、残りは銀行からの融資を受けています。

 「町にお金を残す」がモットーなので、町民以外の投資は認めていません。これまでに町の人口の1割を越える300人がこの発電事業に投資を行っています。毎年、3億円弱の売電収入があり、肝心な出資者へのリターンは年率平均で8~10%とたいへん高いのです。投資家でもある町民が、満面の笑みで風車の話をするのも納得がいきます。町ではさらに10基の風車を建て増す計画が進んでいます。さらに稼げると住民の笑みは破顔の勢いです。

 そういっても、最初は簡単ではなかったといいます。一本目の風車を建てる1998年時点では、まだ、ドイツにも再生可能エネルギー法がなく、事業リスクは今よりずっと高かったのです。このため発起人の地元農家のアインジードラーさんが町民への説得を重ね、少しずつ理解者を増やしていきました。最初の投資を行った30人は、投資リターンを目当てにしたわけではなく、気候変動への対応や地域経済の活性化がモチベーションだったといいます。

写真:屋根にパネルを載せた消防署

[屋根にパネルを載せた消防署]

地元を潤す様々な工夫

 日本でも、最近「再生エネを地域活性化の切り札」にしたいという取組みが各地で始まっています。この町には、市民風車以外にも、きめ細かい工夫が多くちりばめられています。是非、参考にして欲しいと思います。

 たとえば、太陽光発電ではこんなやり方をしました。2002年、屋根置きの太陽光パネルの導入を進めることにした町は、まず地元の企業と一緒に導入計画を立案しました。一年間の設置数を決めた上で、パネルは共同購入して安く仕入れることにしたのです。毎年決まった量が導入されることから、新しくパネルの施工に取組む会社も地元に出来ました。つまり町が太陽光施工業者を育てたのです。

 日本よりも寒く、暖房費を多く使うドイツでは、熱の供給が非常に重要です。ここでもこの町は再生エネを使った取組みを行っています。地元の農家が持つバイオガスプラントのコジェネの熱を公共施設や一部の民間住宅などに安く供給しています。温水を運ぶ配管を計画的に敷設しその距離を毎年伸ばしています。

 また、家の断熱などを診断するエネルギーアドバイザーを町に置いて、住民が無料でアドバイスを受けることが出来るシステムも作りました。中でも家の中に温水を循環させるポンプに注目しました。エネルギー的に非効率な旧型から新しいポンプに取り替えることを推奨したのです。ここには補助金を出して取り換えを促進し、結果として町全体の無駄なエネルギーを大幅に削減させることに成功しています。もちろんポンプの施工は地元業者、さらにポンプの共同購入も行っています。一粒で二度も三度もおいしいといえます。

写真:地元のテレビ局の取材を受けるアルノ町長

[地元のテレビ局の取材を受けるアルノ町長]

名物町長が再生エネを仕切る

 この町を再生エネの町として育てた最大の功労者は、なんと言っても町長のアルノ・ゼンゲレー氏でしょう。1996年の初当選以来、一貫して再生エネの振興策を採り続けています。実は彼の所属政党はドイツで最も保守的と言われるCSU(キリスト教社会同盟)、国家レベルではアンゲラ・メルケル政権の一翼を担っています。「保守なのに、なぜ再生エネ」という私の愚問に、「良いものを取り入れて何が悪い」と一喝された記憶があります。

 1999年に町長が主導し、住民アンケートを元に書き上げた将来ビジョンが、今、次々と実現しているのです。一方で、町長は自宅に200kWの太陽光パネルや小水力発電を設置し、風車の市民ファンドにも投資をしているなど、なかなかちゃっかりしています。視察の一週間前の選挙では90数%の得票を得て当選を果たし、町民の高い支持も引き続き得ています。

写真:木造の体育館

[木造の体育館]

住民が儲かり、町も栄える

 町民が儲かれば、当然のことながら町も潤います。町の所得税による収入は、およそ15年間で3倍近くにも跳ね上がりました。これまでは貧弱だった公共施設も次々と新設されています。体育館や保育園、小学校などは基本的に木造で、見た目にも優しくかつ美しい建造物です。

 一方で、再生エネ関連の企業が創設されたり、新たに町に進出してきたりという現象も起きています。蓄電池や太陽光関連など6つの企業が町はずれに新興企業団地を作りました。かつてのおもちゃ工場の跡地だそうです。

PAGE TOP ▲