非常時だけでなく、通常時もデマンド対策に活用
-工事が完了して丸2年が経ちましたが、EMSのご使用状況などをお聞かせください。
非常時の備え、という導入目的がいちばん大きかったのですが、幸いなことに導入後は、導入のきっかけとなった長時間の停電のような事態は起きておりませんので、通常時の活用においては大きな不備もなく、使い勝手も申し分ないと思っています。
-使い勝手において、特にどのような点を評価されていますか?
ひとつは素人が見ても直感的にわかる画面設計になっているところです。また操作も簡単でとても使いやすい。非常時だけでなく通常時も使えることに大変満足しています。
-通常時のご活用ではどのようなことを意識されていますか?
やはりデマンド対策です。EMSを通常のモードで使用する場合、太陽光発電の余剰分から充電し、系統の電力からは充電しないようになっているので、それによりコストを抑えることができるわけです。ただ現在(2023年2月)は新工場を建設中で、それに伴い太陽光発電設備を大幅に移設した関係で、昨年の12月初旬より発電量が減っております。そのため契約電力に対しデマンド値がどうなるか、と少し心配しましたが、NAS電池からの放電で日中の足りない電力をカバーし、デマンドを抑えられています。そういう意味では太陽光発電だけではなく、NAS電池の存在価値がこの工事期間中にも発揮できているということになりますね。
-太陽光発電による発電量が減少している間は、EMSのモードを変えて運用するわけですね。
BCPモードで運用しています。このモードでは、夜間負荷が下がって、契約電力に対して100kW以上余裕があるときには系統からも充電ができ、電池の充電量を確保できます。これによってデマンド対策ができてるということですね。
-日常的にどのような使い方をされていますか?
例えば今の時期、2月は1年で1番の厳冬期になりますから休日明けの月曜日の朝は、電力の多くが空調に使用されている状況です。ですからこの時期の1日の使用量の推移としては、午前中、冷え切った工場を温めるため、空調による消費電力がどんどん上がり、ほぼピークが立って、そのあと日中は空調の負荷が下がってきますので、午前中よりも少なめで推移し、定時を過ぎると落ちていくというパターンになります。朝方、空調利用による負荷がかかっているのに、そこでまた生産量が増えた場合、その分の負荷もプラスされれば、電池の残量が大きく減ってしまう可能性はあると思います。そうなると契約電力を引き上げなければ、となってしまうかもしれません。しかしそうなったとしても契約電力の引き上げ幅は、NAS電池のおかげで相当抑えられると思っています。また、太陽光発電が以前のように稼働するようになれば、日中の発電量で400kW以上が期待できますので、生産量が増えて夜間に電力消費量が多くなっても、その分をNAS電池に充電した電力でカバーできると思います。
日常使いができること、それが一番のメリット
-導入後にお気づきになったメリットはありますか?
当初は、災害で停電に見舞われても工場の操業は止めずに少しでも安定させたい、という目的で非常用発電機を導入するかどうかの検討から始まっています。結果的には全く異なり、非常用発電機ではなく、太陽光発電システムとNAS電池を導入し、EMSでコントロールするという今のシステムは、これまでお話ししているように、日常使いができています。それが一番のメリットだと思っています。普段役に立つんだな、ということですね。
-確かに、災害時だけのための設備ということではないですね。
今は、ESGやSDGsなどを意識して、企業は環境に配慮した経営に取り組まなければいけない時代ですが、このシステムはCO2排出量の抑制ができるなど、対外的にPRすることも可能です。検討した時は、そういった環境トレンドが活発化する1年ぐらい前でした。菅元首相のカーボンニュートラル宣言はその翌年でしたので、タイミングも悪くなかったと思いますし、当初のシミュレーションよりも発電量が上回ったためCO2削減効果も予定以上になって非常に良かったです。
-電気料金の節約という点ではいかがでしょうか?
この1年、電気料金は猛烈な勢いで高騰していますので、このシステムを日常的に使ってデマンドの管理をしてきたことで、おそらく二千万円近い効果が出せていると思います。ただこれも電気代が上がると明確な予測があったわけではないのですが、結果としては大きな効果を出すことができました。
-導入前に期待した効果は十分得られたとお考えですか?
はい、そう思います。通常感じている中で期待通りにいかなかったということはありません。EMSは私が面白がって触ってはいますが、基本的には何もしなくてもいいですし、日常使いで太陽光発電設備の分についてはもう投資回収できるというのが明らかになっています。NAS電池の分まで回収できるとは今はまだ言えませんが、昨今のように電気代が高騰し続けるなかでそれに見合う効果を出せておりますので、有事に備えて、という位置づけを踏まえれば、非常に良いシステムだと言い切れると思います。
省エネになるネタを探して、コスト削減につなげる
-面白がって触っているとおっしゃっていましたが、どういったことをされているのですか?
要は機会損失しないようにしたいというだけなんですが、たとえば、日曜日の使用量はだいたい500kWぐらいなんですね。晴天の休日に太陽光発電が稼働してると、日中は最大で500kWの発電ができてしまうんです。使用量も500kWですので電力会社の電気をゼロにするかというとそれはできません。逆流するといけないので最低でも160kW以上の電力は電力会社から買うような設定をしています。そうすると当然余剰が発生する計算になります。ですがこのシステムでは、そのような時は自動的に発電を止めて電気が余らないように発電量を抑えます。ただ、せっかく天気が良くて発電できるのにそれを止めてしまうのは勿体ないので、休日の天気予報を確認して晴天だとわかったら、その前夜に少しずつ放電するような設定をします。NAS電池の残量を空けておいて、休日の日中に電力を電池に貯め発電を止めない、ということを天気と相談しながら手動でやっているんです。
-「手動」で、と伺うと難しく感じますが、そうでもないのでしょうか?
いとも簡単で、おそらく子供がしているシミュレーションゲームよりも遥かに簡単だと思いますよ。たとえば「電力の需給逼迫で・・」という時には「手動」で放電を最大の400kWに設定しフルで放電します。その後は「自動」に戻すだけです。金曜日と土曜日の夕方はそれぞれ、明日はどうかな、というのを想定するために天気予報を必ず見て、それによって残量を何パーセント減らそうとかそんなことをしています。
-佐倉事業所としては、電力に関してかなり効率良く運用されていますが、その上でまだ解決しなければならない課題や、今後おこなっていきたいことなどをよろしければお聞かせください。
新しい棟が建ちますので、その屋根にできれば早い時期に太陽光発電を導入しようとしています。直近できちんと考えていてお話しできるのはそれぐらいです。現在の建物では耐荷重がなくて屋根に設備は載せられないので、新しい工場に設備を導入して発電量を増やしたとして、新しい工場での電力使用量にもよりますが、おそらく佐倉事業所の再エネ使用比率は導入当初の20%に戻るぐらいだと思っています。
-では引き続き、導入済のEMSの方も今までのように活用していくということですね。
はい。実は他にも省エネのネタ探しを行っておりまして、既に合計で年間100から150万円ぐらいの効果が出せそう、というのを見つけました。オムロンさんに系統ごとのいろいろな電力を可視化できるようにしてもらったので、それも活用しています。
つい先日から始めたのは、メッキの液温の昇温タイミングをずらすことです。メッキの液温は電気ヒーターで上げるんですが、実際に動き出すのは朝なのに昇温を夜中に行っており、そのタイミングでは早過ぎるのではないか、ということで、生産に影響しない範囲で昇温時間をもう少し遅らせて朝に近づける。それにより得られる効果は年間50万円ぐらいになりそうです。
左)見える化システム 右)EMSコントローラ画面
太陽光発電設備や蓄電池、空調設備や生産設備などを組み合わせ、EMSコントローラーにより最適な制御を実現します。たとえば、工場における電力使用量の予測と太陽光発電設備の発電予測から、蓄電池の運転計画を立て、最も効率的な電力の使い方を自動で制御することも可能になります。
-すごいですね、それを見つけられたというのは。
この仕組みを入れてもらったおかげです。実は午前中も見ていたのですが、改善前と改善後の差を積み上げていくと年間50万円ぐらいになるんです。夜中の0時を回ったところで昇温をしてしまっていると、明らかに工場は動いていないのにたまたまこのラインだけが夜中の0時台に必ずポコンと上がっている、と。それで、これ何でだろう?っていう感じで見つけたわけですね。
今後、OFEに期待することは?
-最後に、オムロン フィールドエンジニアリングに今後期待することなどございましたらお聞かせください。
はい。まずひとつは、このEMSのシステム、そのクラウド化をご検討いただいていると聞いています。また2025年度からは、デマンドレスポンスをオムロン フィールドエンジニアリングさんがアグリゲーターとして取り組まれるということも伺っています。それが実現しますと先ほどお話した、デマンドレスポンス発動時にこちらがEMSを「手動」設定にして、400kW放電しました、3時間経ったので止めました・・・・、というようなこともする必要がなくなると聞いています。これらがまずは期待する部分ですね。ぜひそれを実現していただきたいと思っています。あとは、もともとオムロンさんには一昨年より空調の更新で毎年工事をしていただいています。来年度以降もそういった更新工事については、工場の規模も大きくなってきて、空調の台数もかなりの台数になって、何年たったら一斉に更新するというわけにもいきませんので、計画的に行っていくことを考えていかないといけないかなと思っていますので、そういったところについてもそうですが、いろいろと省エネなどを含めた良いご提案をいただければ、と思っております。
[2023.2.1]
施工主様情報
施設名 | 山一電機株式会社 |
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設立 | 昭和31年(1956年) |
本社所在地 | 東京都 |
事業内容 | 検査⽤バーンインソケット、コネクタ、実装⽤ICソケット、フレキシブル配線板、光薄膜フィルタ等の製造および販売 |
ホームページ | http://www.yamaichi.co.jp |
施工内容
施工場所 | 佐倉事業所(千葉県佐倉市) |
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施工内容 | ■太陽光発電システム[容量:680kW] ■NAS電池[定格出⼒:400kW、定格容量:2,400kWh] ■EMSコントローラー |
施工期間 | 約4ヶ⽉(2020年6⽉- 9⽉) |
担当者から
太陽光による発電量と需要電力のバランスは日々変動していますが、蓄電池の充放電制御により安定稼働ができており嬉しく思います。実運用のなかで課題も出てきますが、その分ノウハウも積みあがっており、EMSの高度化提案もさせていただく予定です。
これから増えてくる「電力需要逼迫」という状況においては、デマンドレスポンスへの参画など、今後も山一電機株式会社様とともに社会課題の解決に貢献していきたいと考えています。
オムロン フィールドエンジニアリング株式会社
エネルギーマネジメント事業本部 EMエンジニアリングSE部 EMエンジSE2課
西畑 真