容量市場とは?
電力の供給力を売買する新しい仕組みや背景をわかりやすく解説!
電力の供給力を売買する容量市場とは?
INDEX
はじめに:電力供給の「容量市場」とは?簡単に解説!
容量市場という言葉をご存じでしょうか。容はじめに:電力供給の「容量市場」とは?簡単に解説!量市場とは、「4年後の発電能力(供給力)をオークション形式で募集・落札する仕組み」のことです。
電力自由化後、電力会社は市場競争にさらされ、採算が取れない場合は発電所そのものを稼働させない(休廃止する)という判断も増えてきました。
当然ですが電気は誰かが発電してくれないと使うことはできません。採算が合わないからといって誰も電気を発電しなくなってしまえば日本はエネルギー不足に陥ってしまいます。そこで政府は、電気を作ってくれる人(供給家)を集めて、「4年後に電力供給力の約束をしてくれる事業者にはお金を支払います」というオークションの仕組みを作りました。これが「容量市場」です。
オークションを仕切るのは経済産業省・資源エネルギー庁などが監督する「電力広域的運営推進機関」です。通称「広域機関」と呼ばれるこの組織は、東日本大震災をきっかけとして、「日本全国の電力を横断的に管理し、最適なネットワークを整備する司令塔」として2015年4月に設立されました。
つまり容量市場は、日本の電力を確保するためのエネルギーマーケットでもあり、電気事業者側から見れば未来の電力供給力を売買できる新たなビジネスチャンスとも言うことができます。
今回はこの「容量市場」について詳細に解説していきます。まずは、日本の電力供給の種類について整理していきましょう。
日本の電力市場の種類
①卸電力市場
発電をする大手電力会社と、小売電気事業者とが電力を取引するのが卸電力市場です。日本国内で消費される電力については、「JEPX(日本卸電力取引所)」が日本で唯一の仲介役をしています。JEPXは日本の電力自由化を受けて2003年に設立されました。
JEPXは発電事業者から電力を仕入れ、それを小売事業者に売っています。卸電力のため、購入できるのは会員登録した電力会社だけです。日本の卸電力市場とはJEPXそのものだということもできます。
②容量市場
容量市場は前の章でもご説明した通り、「4年後の発電能力(供給力)をオークション形式で募集・落札する制度」のことです。容量市場を取り仕切るのは「電力広域的運営推進機関(広域機関)」で、電力を供給できる事業者を募り、オークション形式で安い価格をつけた事業者から順に落札していき、最後に落札した(一番高い価格の)応札価格を全ての落札事業者の約定価格とします。(詳細は後述します)
<参考リンク>
電力広域的運営推進機関ホームページ (occto.or.jp)
③受給調整市場
容量市場が年間の供給力を確保する目的で開設されているのに対して、緊急性の高い供給力を確保する目的で設置されているものが需給調整市場です。そもそも電気は大規模停電などのリスクを避けるため需要と供給のバランスを常に保たなければなりません。しかしバランスを保とうにも、電気を使う人の需要はなかなか予測することができません。そのうえ急な需要に対応できる供給力も簡単にコントロールできるものではありません。
そこで必要とされるのが「調整力」です。簡単に言うと、短時間で電気を作る能力(供給力)であったり、短時間で電気を使う能力(需要創出力)であったりします。
具体的なエネルギーリソースとしては、電気を供給する側として発電機、蓄電池があります。電気を使う側としては工場による負荷調整などがあります。
2021年、一般配電事業者がエリアを超えて調整力を調達することができるようになりました。これにより、より効率的な電力の需給調整ができるようになりました。
<参考リンク>
需給調整市場について:資源エネルギー庁
④非化石価値取引市場
脱炭素社会を実現する取り組みが加速している中、電気事業者や企業には「化石由来でないエネルギーを選んで買いたい」というニーズがあります。(非化石エネルギーとは具体的には、太陽光・風力・水力・地熱・バイオマスなどの再生可能エネルギーと、原子力発電です。)
非化石価値取引市場は、そのような「化石由来でないエネルギーを選んで買いたい」というニーズに応えるために、化石由来でないエネルギーの環境価値を可視化し、証明書として売買するものです。非化石エネルギーの環境価値の証明は、「非化石証書」と呼ばれます。企業や電気小売事業者はこの非化石証書を買うことで、実質的に再生可能エネルギーを扱っていることと同じとみなされます。
電力供給の「容量市場」とは?概要と仕組み
容量市場の概要と仕組み
日本国内のさまざまな電力の取引市場をご紹介したところで、具体的に「容量市場」について概要と仕組みをご説明します。
容量市場とは、日本政府(経済産業省・資源エネルギー庁)が監督する「電力広域的運営推進機関」が開催するオークション形式のマーケットです。
何を扱うかというと、「4年後の電力の供給力」です。
なぜ4年後の電力供給力をオークション形式で募るのかというと、それは日本の電力供給力の不足が懸念されているからです。(詳しくは次章の「電力自由化と日本が抱える電力調達課題」で解説します。)また、東日本大震災をきっかけに、日本の電力の安定確保を目指す目的もあります。
このように、電力を長期的に安定して確保するために導入されたのが「容量市場」です。
容量とは、分かりやすく言うと「必要な時に発電することができる能力」のことです。容量市場に参加できる容量の最低ラインとして、1000kW以上と定められています。
どのような事業者が参加できるかという点や価格の決め方については後述しますが、容量市場とは、電力広域的運営推進機関が様々な発電事業者から広く将来の供給力を確保するスキームであり、発電事業者にとっては将来の電力を約束する代わりに収入を得られる制度でもあります。
容量市場に参加できる電源の種類と条件
安定電源
容量市場に参加できる対象電源としては、火力、原子力、大規模水力(揚水式・貯水式・自流式)、地熱、バイオマス、廃棄物発電があります。これらの電源の共通点としては「必要な時に発電できる能力のある電源である」という点です。一般的に「安定電源」という呼び方をされることもあります。容量市場に参加するための最低ラインとして、容量が1000kW以上の電源であることが条件となっています。
変動電源
安定電源のほかに、変動電源と言われるものも入札が可能です。変動電源とは太陽光発電(FIT・FIP案件を除く)、風力、水力(自流式の一部)発電を指します。これらにおいても、容量市場に参加するには容量が1000kW以上の電源であることが条件です。
容量を1000kW以上確保できる太陽光発電はメガソーラーと呼ばれる大規模太陽光発電となります。そのため単独の施設で容量市場に参加することはかなりハードルが高いと言えます。
そこで複数の太陽光発電を組み合わせたアグリゲート方式で容量市場に参加する場合があります。
発動指令電源
容量市場に参加する条件として「1000kW以上の容量が確保できること」がありますが、1000kWの容量を一般企業が確保することは容易ではありません。
このような背景があったうえで発動指令電源は、アグリゲーターと呼ばれる電力の集約・調整事業者が小規模電源を複数組み合わせて容量を確保したり、デマンドレスポンス等を利用して電力需要を減らしたりすることで、電気を生み出す取り組みだけでなく需要を減らす側の取り組みと合わせて1000kW容量を確保するものです。
デマンドレスポンスとは、電力需給を調整するアグリゲーターを介して電力がひっ迫する夏場などに企業や工場が節電の調整(蓄電池や再生可能エネルギーを利用する)をすることです。
電力の需要を減らすことは電力の供給力を生むことと同じですから、一般企業にとっては取り組みやすい仕組みといえます。
企業が容量市場に参加するにはこの発動指令電源としての参加が一般的です。
容量市場の価格の決め方
容量市場の価格は、電力広域的運営推進機関が考える「これくらいの電力供給力ををこれくらいの価格で買いたい(供給力が多くなるほど安くなっていく)」という需要曲線と、電源事業者による「この電力供給力をこのくらいの価格で売りたい(安い順に並べていくと後ろに行くにつれ高くなる)」という応札曲線が交わるところで決定されます。
簡単に言うと、電源事業者の応札価格を安い順に並べ、電力広域的運営推進機関が「ここまでを落札します」と定めた時、その最高プライスが全ての落札者の約定価格になるということです。仮に一番安い値を付けた事業者であっても、最高落札額(約定価格)が適用されます。これを、シングルプライスオークションと言います。
需要側から見れば、ある程度の供給力は「いくら支払ってでも欲しい」ものであり、約定価格は供給力に対して付けられる最も安い価格です。容量市場の価格の決め方は、まさに需要と供給の交わるポイントで決定されるのです。
容量市場のスケジュール
容量市場は2020年に開設され、4年後、つまり2024年の実需給についてのオークションが初めて開催されました。容量市場のスケジュールとしては、約4ヶ月の参加登録期間を経て、応札・約定がなされたのち、契約が締結されます。契約締結後、実際に需給が開始される年度の2年前に本当に供給力が確保(提供)できるか(リクワイアメント)の「実効性テスト」が行われます。
実効性テストで不合格となった場合は、電源を変更するなどして再度テストを受けます。それでも不合格になった場合は供給できなかった分に対して市場退出(除外)となります。
容量市場が導入された背景と目的
電力自由化と日本が抱える電力調達課題
2050年に迫ったカーボンニュートラル。それに向けた化石エネルギーからの脱却は日本の大きな課題です。そのために政府は、太陽光発電をはじめとした再生可能エネルギーへの転換を精力的に進めてきました。
さらに2011年の東日本大震災の経験から、エネルギー供給を一極集中で行うのではなく、地方分散型、地産地消型へ転換していくことで災害リスクを最小限にとどめたいとの考え方が出てきました。この2つの課題を解消するにあたって行われたのが2016年4月にスタートした「電力自由化」です。
電力自由化以前は、一般家庭に電力を供給する電力会社は住むエリアによって自動的に決定され、自由に選ぶことはできませんでした。しかし電力の自由化によって一般家庭でも電力会社を自由に選ぶことができるようになり、その結果様々な電力料金プラン・サービスが打ち出されることとなりました。消費者は安くお得な電力を購入することができるようになった一方で、電力は市場の価格競争にさらされることにもなりました。
電力の自由競争が加熱する一方で、日本が絶えず多くの電力を必要としている事実もまた変わりません。現状頼っている火力発電施設を維持していくためには、莫大な維持費が必要です。しかし電力の自由化が本格化すれば、火力発電所や原子力発電所といった大規模な施設を維持していく費用が捻出できず、停止・廃止の決断をする電力会社も出てきます。
こうなると電力価格の低落どころか、調達さえままならない可能性がでてきます。
そこで出てきたのが「容量市場」の考え方(容量メカニズム)です。
再エネ拡大・電力調達多様化の歩みを止めないために
容量市場は、電力を安定的に確保しながら再エネ拡大をはじめとする電力の多様化を進めていくうえでなくてはならない仕組みです。現状の電源(主に火力発電)の設備を維持しながら、再エネへの転換をスムーズに進めていくためのスキームだと言っても過言ではありません。
日本が脱炭素、GX(グリーントランスフォーメーション…クリーンエネルギーへの転換)を実現するうえで必要な枠組みであり、国民や企業の理解と協力を得たうえで、容量市場をより活性化させる動きが必要と考えられています。
容量市場を導入するメリット
①再エネの主力電源化に寄与する
容量市場の誕生によって火力発電をはじめとした主力電源を最低限維持していくことが可能となり、安心して再生可能エネルギーの主力電源化を進めていくことができます。電源の転換期において最も怖いのは電力ひっ迫に耐えられず大規模停電を起こすリスクです。このリスクを極力回避するためにも、必要最低限の電力を維持できる容量市場は必要な仕組みだと言えます。
②小売り電気事業者が発電所を持たなくても供給力を調達しやすくなる
仮に容量市場が存在しなかった場合、小売り電気事業者は「実際に発電された電力」を仕入れ・販売していくことになります。しかし電力調達は常に不安定であり、キッチリ予定通りに予定価格で調達できるわけではありません。容量市場があれば、将来電気が必要な時に供給してもらえる「供給力」を調達できるわけですから、より安定した事業運営を見込めるようになります。
③災害などの際の停電リスクを回避する
容量市場は様々な発電事業者から供給力を確保するものです。一か所に頼らず、多くの事業者に供給力を分散することで、地震や台風、急な 電力ひっ迫などの際の停電リスクを回避できます。
容量市場を導入するデメリット
①オークションの予想外の高騰
容量市場はあくまでもオークションですから、高騰リスクを常にはらんでいます。実際に2020年に初めて行われた容量市場のオークションでは、予想外に落札価格が高騰し混乱を招きました。電力はあってもなくてもいいような性質のものではなく、一定の量は必ず必要になるものです。そのため売る側にも買う側にも倫理観が求められます。
また、約定価格の結果によっては、再エネ主電源化に逆行する流れを生み出すきっかけともなってしまいます。あくまでもオークションは適正に行われるべきですが、高騰など国民が不利益を被らないような仕組み作りも今後必要とされていくかもしれません。
②既存電源を守りすぎることにより再エネ拡大の足かせとなる
容量市場は実質的には既存電源(主に火力発電)を維持・縮小しながら再エネ比率を伸ばす動きです。電力の安定供給には必要な措置ではありますが、既存電源を過剰に擁護してしまうことになれば、それは再エネ拡大や脱炭素化に向けての動きを抑制してしまうことになりかねません。容量市場においては、約定価格など市場の動きをしっかりと見定めながら、再エネ拡大の動きを止めないことが何よりも大切です。
一般企業が容量市場に参加する方法
デマンドレスポンスを利用(アグリゲーターによる参加)
容量市場に参加する大きな条件が、「1000kW以上の容量(供給力)が確保できること」です。しかしこの規模の容量を確保するには太陽光発電であればメガソーラーなどの大規模設備が必要で、一般的な企業にとって現実的とは言えません。
そこでおすすめしたいのが、デマンドレスポンスを利用した容量市場への参加です。
デマンドレスポンスとは、電力の需給ひっ迫時に企業側の節電協力によって電力不足分を解消する取り組みです。具体的にはアグリゲーターと呼ばれる電力の集約・調整役によって節電容量や供給容量が取りまとめられ、1000kW以上の容量を確保して容量市場に参加します。
企業は電力を供給する側ではなく、需要を減らす側の取り組みで容量市場に参加するというわけです。この参加方法であれば、ひとつの企業では1000kW未満の節電容量であったとしても、アグリゲーターが取りまとめてくれるので容量市場に参加できます。
デマンドレスポンスによって容量市場に参加できた企業は、インセンティブを受けることができます。次章では、オムロン フィールドエンジニアリングによるアグリゲート事業をご紹介します。
オムロン フィールドエンジニアリングのアグリゲート
オムロン フィールドエンジニアリングは、発動指令時に蓄電池に貯めておいた電力を使う、非常用発電機を利用するなど、さまざまな発電・蓄電技術をお客様に提供しながら電力のアグリゲートを行っています。
弊社がサポートさせていただいている多くのお客様の電源を組み合わせることで1000kW以上の容量を確保し、容量市場へ参加したのち、対応するインセンティブをお客様に還元する予定です。
仮に契約通りに需要抑制ができなかった場合も、お客様にペナルティが発生することはございません。お客様の発電リソースを最大限に活用し、収入を得ていただくサポートを致します。
容量市場でも活用できる
オムロン フィールドエンジニアリングの蓄電ソリューション
オムロン フィールドエンジニアリングでは効率的な再エネ利用のご提案と、容量市場でも活用できる蓄電ソリューションのご紹介をしております。
施設内で発電を行い、それを最大限に活用したうえで余剰があった場合には蓄電し、オムロン フィールドエンジニアリングのアグリゲートを活用して容量市場へ参加していく…発電から活用、容量市場の参加までワンストップでお手伝いできるのがオムロン フィールドエンジニアリングの蓄電ソリューションです。
ご興味がある方は、しくみや事例などを以下のリンクからわかりやすくご紹介しておりますのでぜひご覧ください。
▼日本ガイシ×オムロン フィールドエンジニアリングの「再エネ+蓄電ソリューション」
▼再エネと蓄電池による効率的なソリューションを導入された企業様の事例をご紹介します
まとめ:日本の電力供給の安定化にむけて、ぜひ容量市場にご参加ください
いかがでしたでしょうか。電源の変革期に容量市場が必要であること、仕組みや価格の決め方、メリットや問題点についてお客様の理解が深まりましたら幸いです。また、オムロン フィールドエンジニアリングのアグリゲートやデマンドレスポンスを通じて、電⼒ひっ迫時の供給力をご提供いただき、電力の安定供給や低価格化に貢献していただけましたらとても嬉しく思います。
もしご興味やご相談がありましたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。
【執筆者情報】
脱炭素ソリューション.com 編集部
脱炭素ソリューション.comが運営する「エネタメ」は、オムロン フィールドエンジニアリング株式会社のエネルギーマネジメントに関する豊富な実績とノウハウを活かした専門的な情報や、再生可能エネルギー、蓄電池、災害対策、省エネソリューション、補助金などのコンテンツを中心に、脱炭素化/カーボン・ニュートラルの取り組みに役立つ情報を発信しています。