炭素税・カーボンプライシングとは?
日本や諸外国の状況や導入のメリットデメリットを解説!
炭素税・カーボンプライシングについて解説!
はじめに:炭素税とは?簡単に解説!
炭素税の概要と発祥
炭素税を初めて提唱したのは、アメリカの経済学者ウィリアム・ノードハウス氏です。ノードハウス氏は気候変動問題が経済に及ぼす影響を数値的に分析する環境経済学の先駆者で、2018年にはノーベル経済学賞を受賞しました。
炭素税のしくみを簡単にご説明しましょう。
いうまでもないことですが、地球温暖化は人間の経済活動と大きな関わりがあります。それは産業革命の前後で気温が急激に(約1.48℃)上昇していることからも明らかです。
人間の経済活動によって気温が上昇してしまったことで、経済活動とは直接関係のない動物や自然環境がさまざまな損失や負担を強いられる状況が発生しました。例えば災害や飢饉、環境破壊などです。このような、経済活動によって発生した社会的・環境的な損失や負担のことを「社会的費用」と言います。
そこでノードハウス氏は、二酸化炭素の排出時に社会的費用と同じ水準の税率を課すことで、排出そのものを抑え、社会的費用も賄うことができると考えたのです。
炭素税と近い言葉で「カーボンプライシング」がありますが、カーボンプライシングには炭素税のほかにも、より広い枠組みで炭素の排出者の行動を変容させる規制や価値取引が含まれます。例えば国内排出量取引やクレジット取引(非化石価値取引)などです。炭素税はカーボンプライシングと言う大きな枠組みの中に含まれています。
環境税と炭素税の違い
環境税という言葉の定義は明確に定まっているわけではありません。環境を保護していくために課す税金のことを環境税と言います。環境省は環境税について、以下のように述べています。
「環境税は、二酸化炭素の排出量に応じ、工場や企業、家庭などから幅広く負担を求めることにより、広く国民に対し温暖化対策の重要性についての認識を促し、排出量の削減を推し進めるものである。また、京都議定書目標達成計画の実施に当たり必要な安定的財源の確保も可能とするなど、各種温暖化対策の実効性を確保することができる有力な手段である。」(※)
※引用:環境税の具体案 | 総合環境政策 | 環境省 (env.go.jp)
上記の文の中で環境省は「工場や企業、家庭などから幅広く負担を求める」と述べています。環境税はより広い社会の変容を求めていくために課税するものであり、石油・石炭などの化石燃料の燃焼に対して企業や個人に現実的に課税していく炭素税よりもより概念的な語句として使用されていると捉えられます。
炭素税が導入された背景
炭素税が導入された背景には、カーボンニュートラルなど世界的な気候変動問題への取り組みが挙げられます。後の章で詳しく解説しますが、日本に先行して炭素税を導入した諸外国では実際に二酸化炭素の排出量は減少しており、地球温暖化対策として有効な手段であると考えられています。
日本で炭素税が導入されたのは2012年です。日本での名称は「地球温暖化対策のための税(温対税)」で、3年半かけて段階的に税率が引き上げられ、2024年現在ではCO₂排出量1tあたり289円と、炭素税を導入した諸外国と比較すると非常に低い税率となっています。
環境省の概要には「すべての化石燃料の環境負荷に応じて広く薄く公平に負担を求めるもの」と記載されており、炭素税において日本はスタートを切ったものの成果や影響などを慎重に検証しているといったところです。今後については後の章で解説しますが、他のカーボンプライシング制度と合わせてより効率的で日本に合ったやり方が採用されていくものと考えられます。
<参考リンク>
地球温暖化対策のための税の導入 | 総合環境政策 | 環境省 (env.go.jp)
炭素税の具体的な仕組み
ここからは、炭素税について具体的にどのようにして課税していくのか、その仕組みについて解説して参ります。
上流課税と下流課税
炭素税の目的は簡単に言うと、「化石燃料を高くすることで化石燃料を使いにくくする」ことです。化石燃料が流通するには採掘・輸入・使用・排出とさまざまな段階がありますから、どの段階で課税するかによって使いにくくなるポイントが変わってきます。上流課税と下流課税というのは課税する段階を示す言葉です。
「上流課税」と言うのは、化石燃料の流通初期段階、日本国内で言えば輸入時に課税することを指します。日本は化石燃料のほとんどを輸入に頼っていますから、輸入時に一括して課税すれば脱税の恐れも少なく簡単に税収を得ることができます。
しかしこの方法だと、最終消費者である工場や個人など、社会において化石燃料を実際に使用している人たちに自身が負担している炭素税の額やメリットを実感してもらうことが難しくなります。
税の負担実感がないということは、それだけ化石燃料の利用を少なくしたり太陽光発電などを利用してエネルギーの転換を行ったりするなどの「行動の変容」を起こす力が弱くなるということです。それだと炭素税の本来の目的の達成が難しくなります。
炭素税の大きな目的のひとつは、多くの企業や個人に「環境を守るために必要なコストである」と実感してもらうことです。そのためには「下流課税」と呼ばれる、なるべく最終消費者に近い部分での課税が望まれます。しかしこれだと徴税対象が幅広くなり、行政コストが増大することや、脱税や課税漏れの可能性も高まるため、より効率的な徴税方法が模索されています。
炭素税に関する諸外国の動き
※出典:諸外国における炭素税等の導入状況(環境省)
炭素税に関して世界の国々はどのような方針を取っているのでしょうか。結論から言うと各国の事情や背景によって炭素税に関する方針は大きく異なるようです。この章では積極的に炭素税を導入している北欧やヨーロッパの国々と、日本に近いアジアの動きをご紹介して参ります。
世界で初めて炭素税を導入したフィンランド
フィンランドは世界で初めて炭素税を導入した国です。導入年は1990年(1.12EUR/t-CO₂)ですが、2020年時点では約69倍の77EUR/t-CO₂(約9,620円※)とされており、非常に高い税率を課していることでも知られています。
フィンランドは2011年にエネルギー税制改革を行い、熱利用と輸送用燃料の税率を分離しました。これは税率を部門別に分けることで、より効率的な燃料使用の抑制を期待したものと考えられます。
税収の使途としては、所得税の減税や企業の社会保障費削減による税収減の一部を炭素税で賄うなど、国民に広く還元する形で使用しています。
また、実質GDPの成長を維持しながらCO₂削減を達成するなど経済成長との両立も実現しています。フィンランドは炭素税導入国のロールモデルとして常にその動向が注目されています。
(※)輸送用の炭素税。為替レート:1EUR=約125円で換算。(2018~2020年の為替レート(TTM)の平均値、みずほ銀行)
経済との両立を目指したスウェーデン
世界的に見て最も高い炭素税率を課しているのがスウェーデンです。スウェーデンは世界で初めて炭素税を導入したフィンランド(1990年)に続き、翌年の1991年に炭素税を導入しています。スウェーデンの炭素税は2021年時点で1,200SEK/t-CO₂(約14,400円/t-CO2※)で、世界的に見ても群を抜いて高い炭素税を課しています。
スウェーデンがこれだけ高い炭素税導入を実現できた背景には、導入の同年に法人税の大幅減税を行ったことがあります。税制の軸を環境にシフトする環境税制改革を実施したことで、世界最高の税率を実現しました。
スウェーデンはCO₂排出量の削減とGDP成長の両立を達成したことでも知られており、フィンランドとともに北欧の脱炭素先進国としてリーダーシップを発揮しています。
※為替レート: 1SEK=約12円。 (2018~2020年の為替レート(TTM)の平均値、みずほ銀行)
環境先進国フランス
フランスは総発電電力量の約72%が原子力発電(2018年末)であり、諸外国の中では比較的炭素税を導入しやすい背景があります。一方でフランスはヨーロッパの中でも環境保護意識の高い国として知られており、2014年に炭素税を導入して以来、先進国の中でもかなり高い税率を課してきました。
特にフランスは中長期的に大幅な炭素税率の引き上げが予定されており、2021年時点での税率は44.6EUR/t-CO₂(約5,575円/t-CO2※)ですが、これを2030年までに100EUR/t-CO₂まで引き上げるという意欲的な発表をしています。
パリ協定を採択したCOP21の議長国でもあるフランスは、世界の地球温暖化対策の中心的国家です。一方でフランス国内では燃料税(フランスでは炭素税の一部を個人が使用する燃料に課税した)引き上げに対して「ジレ・ジョーヌ(黄色いベスト運動…労働者の象徴である黄色いベストを着用したデモ)」と呼ばれる国民の抗議活動(デモ)が発出し、炭素税に対する国民理解が重要であることを改めて考えさせられる出来事となりました。
※為替レート:1EUR=約125円。(2018~2020年の為替レート(TTM)の平均値、みずほ銀行)
炭素税・カーボンプライシングを巡るアジアの動き
炭素税の導入に対して意欲的な北欧・ヨーロッパ諸国ですが、日本を含むアジアの炭素税に対する足取りは比較的重いのが現状です。日本の炭素税については後述しますが、排出量1トン当たりの税額は289円/t-CO2と非常に低いものです。中国・香港・台湾・韓国・インドネシア・マレーシア・フィリピン・タイ・ベトナム・インドなどアジアの主要各国はいずれも2024年現在で炭素税の導入を実施していません。日本以外にはシンガポールが2019年に炭素税を導入しています。
一方でアジア各国が意欲的に取り組んでいるのはカーボンプライシングの中でも「排出権取引(キャップ・アンド・トレード)」です。排出権取引は個別の企業に対して二酸化炭素の排出量の上限を定め、それを超える分に対して別の企業と排出枠を取引(トレード)をする制度です。各企業は排出枠を購入したり、削減努力によってできた排出枠を売ったりできます。
排出権取引のメリットは全体として達成したい目標を明確にできる点と、削減費用を最小化できる点にあります。デメリットは制度の複雑さと取引価格が安定しない点です。
アジア諸国の多くはこの排出権取引の整備を進めています。中国は2021年7月16日に全国統一の排出権取引制度の拠点となる「全国炭素排出権取引市場」を正式始動しました。主に発電産業中心の始動ではありますが、中国は温室効果ガス(GHG)の大量排出国であり、世界最大規模の炭素市場の誕生に注目が集まっています。
<参考リンク>
諸外国における炭素税等の導入状況(環境省)
炭素税・国境調整措置を巡る最近の動向(環境省)
炭素税を導入するメリット
CO₂排出量の少ない製品が有利になる
CO₂の排出量に炭素税が課された場合、排出量が少ない製品に人気が集まります。人気の理由が「CO₂の排出を少なくできる」というポイントであれば、CO₂排出カットに対して企業努力が注がれることになり、技術の躍進やイノベーションにもつながります。また、CO₂カットについて高い技術力を持つ企業ほど利益を得ることになり、さらに技術革新が進みます。
人々のニーズがマーケットの中で脱炭素志向の良い循環を生み出すことになり、結果的に大きな環境保護の流れを作り出します。
環境や気候変動対策に対して消費者意識が高まる
炭素税が導入されれば、人々はその意義や必要性について真剣に考えるようになります。そのうえで、環境や気候変動に対しての興味や問題意識を共有し、積極的に情報を交換するようになります。炭素税をきっかけとして消費者意識が高まれば、社会と言う大きな枠組みで脱炭素化を進めることができます。
炭素税の税収を気候変動対策に使用できる
炭素税として税収が増えれば、気候変動対策や再生可能エネルギーへの転換政策に使える財源が増えます。日本の税制の基本原則としては「公平・中立・簡素」という3つがあります。このうち「中立」は税制が個人や企業の選択をゆがめることがないようにするという原則です。この原則に外れない範囲で、炭素税の税収は適切に気候変動対策へと使用されていくものと考えられています。
炭素税を導入するデメリット
日本製品が不利になる可能性・日本企業が海外へ流出する可能性がある
炭素税は、二酸化炭素を多く排出する企業、特に鉄鋼業界や化学業界に大きな影響を与える可能性があります。化石燃料のほとんどを輸入に頼っている日本では、エネルギーコストの増大が避けられず、炭素税を導入していない国の製品と比較して製品の価格競争力が落ち、最悪の場合日本企業が海外へ移転してしまう可能性も考えられます。このため炭素税の導入は慎重にならざるを得ません。このため次からの章で触れていきますが、日本政府は単純課税ではなく大規模な経済・社会構造の転換を目指しながらより広い意味でのカーボンプライシングを目指しています。
消費者層への負担が増える
炭素税は上流課税にしろ下流課税にしろ最終的には消費者層への負担が避けられません。フランスの「ジレ・ジョーヌ(黄色いベスト運動)」でも国民(特に労働者層)の強い反発が見られたように、炭素税は国民や消費者層の理解や賛成が必須です。
一方で気候変動問題を解決しなかった時に社会的な負担を被るのも消費者層であることは重要な視点です。両方のリスクをしっかりと説明したうえで、持続可能な選択をしていくことが大切です。
日本の炭素税の特徴と方針
日本の炭素税の特徴と税額
日本に実質的な炭素税が導入されたのは2012年、「地球温暖化対策のための税(温対税)」として税制がスタートしました。2024年現在では二酸化炭素の排出量1トンあたり、289円の税率が設定されていて、企業・個人に限らずガソリンなどの化石燃料を使用する人から一律で徴税しています。税率・徴税方法としては「薄く広く公平に」負担を課す税制であり、税率としては諸外国と比較すると大変低い税率となっています。
しかしこれは炭素税に対して否定的・消極的な態度の表れというわけではありません。日本の国益に沿って考えた時に、経済成長力や国際競争力を維持しながらカーボンニュートラルを目指したほうが、イノベーションや社会の行動変容をスムーズに促せる側面が大きいと言えます。
炭素税を含め、カーボンプライシングには様々な方法があります。前章でも触れた排出権取引をはじめ、日本の産業・経済構造に合った方法を選ぶことでカーボンニュートラルへの道のりは短縮化されます。単に課税額を高くするということではなく、より日本に合ったカーボンプライシングの在り方が模索されています。
<参考リンク>
炭素税について.pdf(環境省)
日本の炭素税の税収と使途
日本の炭素税(地球温暖化対策のための税)の税収は平年時で約2,623億円と見込まれています。日本政府はこの税収を活用して、省エネルギー対策や再生可能エネルギーの普及、化石燃料のクリーン化・効率化などの支援施策を行っています。
具体的にはリチウムイオン電池などの革新的な低炭素技術を有する産業の国内立地の推進や、中小企業等による省エネ設備導入の推進などがメインです。しかしこのやり方だと、税収がきちんと気候変動対策に充てられているかが国民に伝わりにくい部分もあるため、チェック体制の確立や広報の強化が大切です。
炭素税先進国と言われる北欧では所得税や法人税の引き下げに炭素税の税収を活用している国もあります。これは政府が既存の税制から改革を行ったとき、増税した分なにかを減税することで「政府全体の税収は変わらない」(税収中立)という立場を示し、税制が個人や企業の経済活動の邪魔をしないようにする考え方です。
炭素税については徴税率や徴税方法についても議論されるべきですが、使い道についてもしっかりと議論していくことが必要です。
<参考リンク>
「地球温暖化対策のための税」について(FAQ) | 総合環境政策 | 環境省 (env.go.jp)
日本の炭素税の方針
日本政府がGX(グリーントランスフォーメーション※)へ向けて歩みを進める上で問題意識を持っているのが、経済との両立です。ひとつには世界で新たに創出される莫大なGX関連市場を取り込む必要性があること、もうひとつはエネルギーコストの条件が不利である日本において、脱炭素化が競争制約となる可能性があるために、既存の事業構造を大胆に転換し、持続的に利益を得られる産業構造へ変換する必要があるという点です。
この2つの問題意識から日本政府は、かなり大胆で大規模な産業構造改革が必要であると構想しています。長期ビジョンとしては、2022年から10年間で、官民合わせて150兆円の投資を実現していくという大がかりな目標を提示しました。
方向性としては、GX関連の新しい成長産業に対して積極的に支援していくとともに、脱炭素へ向けて積極的に取り組む企業に高い付加価値(インセンティブ)を付けられるようルール形成をしていくというものです。
このような政府の動きからもわかるように、日本政府は脱炭素に向けて今後さらに加速させながら産業構造の大転換を行っていく方針です。次の章ではその施策について具体的に解説して参ります。
※GX(グリーントランスフォーメーション)…温室効果ガス排出削減の取り組みを経済成長の機会と捉え、排出削減と産業競争力向上に向けて経済システム全体を変えること。
今後の日本におけるカーボンプライシングの方向性
日本に限らず世界各国もそうですが、炭素税については経済成長との両立が重視されています。
そのような現状の中で、日本では2023年2月に「GX(グリーントランスフォーメーション)実現に向けた基本方針」が閣議決定され、大きな方針として2つの柱が示されました。
①エネルギー安定供給の確保を大前提としたGXの取組
②「成長志向型カーボンプライシング構想」等の実現・実行
このうちカーボンプライシングに関わる部分は②の「成長志向型カーボンプライシング構想」です。
成長志向型とある通り、経済成長との両立を目指した投資促進案として具体的な仕組みが3つ示されています。
● 1.GX経済移行債
● 2.カーボンプライシングの導入によるGX投資先行インセンティブ
● 3.新たな金融手法の活用
ここではこの3つの仕組みについて詳細に解説します。
1.GX経済移行債
GXを実現するためには、国として大規模な支援策を講じ、民間の投資機運を醸成する必要があります。そこで国が用意したのが「GX経済移行債」と呼ばれる20兆円規模の先行投資支援です。これをきっかけに2022年から2032年までの約10年間で官民合わせて150兆円超のGX投資を実現させて行く方針です。
GX移行債の前提としては、世界で新たに創出されるGX関連の市場を取り込みたいという狙いがあり、日本の技術力や実装段階での競争力を活かし日本の経済成長に繋げようとする意図があります。
2.カーボンプライシングの導入によるGX投資先行インセンティブ
日本のカーボンプライシングの方針が現れている最も重要なポイントがこの「カーボンプライシングの導入によるGX投資先行インセンティブ」です。簡単に言うと、将来における火力発電由来の電力や化石燃料の値上がりを明示することで、先行して準備しようとする企業を増やし、支援するもので、それによりESG投資やGX投資を促します。
積極的に脱炭素化へ動いた企業・事業者に対しては実質的なインセンティブが与えられることになり、GXを加速させることができます。
「カーボンプライシングの導入によるGX投資先行インセンティブ」には、主に3つの制度があります。
1.排出量取引制度(GX-ETS)
日本は2023年4月から試行的に「排出量取引制度(GX-ETS)」をスタートさせています。排出量取引制度とは、各企業に温室効果ガスの排出量目標を定め、目標を超えてしまった企業と、目標以下に抑えて排出枠が余っている企業との間で枠をトレードする制度です。2026年からは本格的な稼働が予定されています。
2.発電事業者への排出枠有償買い取り(有償オークション)制度
「発電事業者の有償オークション」とは、CO₂を大量に排出する火力発電所などの発電部門に対して、排出枠を有償で買い取らせる仕組みです。買取価格はオークション方式とし、2033年度ごろから段階的に導入するとしています。これにより火力発電事業者の負担は増加することになり、電源の脱炭素化を促します。これらの影響が電力価格にどのような影響を及ぼすかは現段階ではっきりと見通すことはできませんが、2030年度以降、一部の電力価格は確実に上がると予想されています。経済産業省は国民負担を急増させないように注視しながら段階的に制度を導入していきます。
3.化石燃料輸入事業者等に対する、炭素に対する賦課金制度
「炭素に対する賦課金制度」は、石油や石炭などの化石燃料の輸入事業者などに対して、炭素の排出量に応じた賦課金を課すものです。2028年度からの導入を予定しています。当初は低い負担で導入する予定ですが、段階的な引き上げを計画しています。本格化するのは2030年以降と考えられています。
3.新たな金融手法の活用
大規模なGX投資を実現するためには、国内外のESG投資を喚起し、金融機関や投資家の力を活用することが重要です。日本政府はグリーン・ファイナンスと呼ばれる環境保護意識の高い企業に特化した金融市場を整備するとともに、脱炭素へ向けて精力的に事業活動を行うための投資・融資(トランジション・ファイナンス)を強化していきます。
まだまだ不透明な部分も多いGX分野ですから、民間の金融機関だけではリスクを取り切れないケースも出てきます。そのような場合は公的資金と民間資金を組み合わせた手法で官民一体での知見の共有に取り組みます。
<参考リンク>
GX実現に向けた基本方針の概要
「GX実現」に向けた日本のエネルギー政策(後編)脱炭素も経済成長も実現する方策とは|スペシャルコンテンツ|資源エネルギー庁 (meti.go.jp)
我が国のグリーントランスフォーメーション政策(経済産業省)
GX投資促進に向けた企業の先進的な取り組みとは
これまでの章でお伝えしてきた通り、日本では企業の競争力強化においてGX戦略が必要不可欠だと言えます。例えばカーボンクレジットのように、CO₂の削減成果が新たな収益のひとつとして見込まれる可能性もあります。これからの企業が取るべきGX戦略とはどんなものなのでしょうか。この章では先進的な戦略の一部をご紹介します。
インターナルカーボンプライシング(ICP)
先進的なGX戦略を採用する企業で行われているのが、インターナルカーボンプライシング(ICP)制度です。この制度は炭素価格を企業として社内設定するもので、CO₂の削減効果を明確にし、投資するかしないかの判断基準に組み込める点がメリットです。
サーキュラーエコノミー
サーキュラーエコノミーとは、資源を効率的・循環的に利用しながら、付加価値の最大化を目指す経済圏を意味します。わかりやすく言うと、資源の投入量や廃棄量を徹底的に抑えるモノづくり・暮らしを目指す社会経済システムのことです。
特に資源の少ない日本では、外国からの資源供給が途絶えるリスク・高騰するリスクに備えて国内で資源を循環させていく必要があります。そのため、成長志向型のサーキュラーエコノミーを実現することが理想とされています。
エネルギーマネジメントシステム(EMS)を利用した再生可能エネルギー活用
GXの実現に向けて、再生可能エネルギーの活用は言うまでもなく重要な視点ですが、中でもEMSを利用したエネルギーの効率的な利用は先進的なGX戦略として注目されています。
太陽光発電や蓄電池を利用するメリットは脱炭素化だけではなく、発電した電気を監視し、より効率的に運用できる点にあります。必要な時に電力を使用し、必要のない時には蓄電する、場合によっては容量市場などで取引を行い、インセンティブを得ることも可能です。
今後は排出量取引制度が本格稼働されることが確実であり、電力のマネジメントは企業にとって必要不可欠な要素となっていくと考えられています。
まとめ:将来的な炭素税の課税・カーボンプライシングの導入に向け早めの対応を
いかがでしたでしょうか。日本の抱えるエネルギーコストについての問題点やカーボンプライシングについての方針がお分かりいただけましたでしょうか。
世界的な方針として、今後温室効果ガス(GHG)の排出量について何らかの経済的な賦課金が課せられていくことは確実で、化石燃料に依存する経済圏では製品やサービスの値上がりが避けられない状況となっています。この状況に先駆けて対応していくためにも、早急なGX戦略や再エネ導入施策を取ることが重要です。まずはできることから一歩一歩。ご質問やご相談がございましたらぜひお気軽にお問い合わせください。
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脱炭素ソリューション.com 編集部
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