温室効果ガスって何?
排出ガスの種類や原因、企業としての削減方法を徹底解説!
温室効果ガスって何?種類や削減方法を解説!
温室効果ガスとは?
温室効果ガスとは、地球表面の大気を温める作用のあるガスのことです。主要な温室効果ガスには二酸化炭素(CO₂)、メタン(CH₄)、一酸化ニ窒素(N₂O)などがあります。
温室効果ガスが地球を暖めるメカニズムには赤外線が深くかかわっています。赤外線は電磁波の一つで、熱を伝える性質があります。身近な例をあげると、赤外線ヒーターや赤外線カメラ、赤外線サーモグラフィなどが挙げられます。赤外線ヒーターは熱で周囲を暖め、赤外線カメラは暗闇で熱を感知して人や動物などを映します。サーモグラフィも熱の反応を可視化する装置です。
このように、熱と深くかかわりがあるのが「赤外線」です。
実は、熱を持ったものはどんなものでも赤外線を放射しています。物体の最低温度である絶対零度(-273.15度)でない限りすべての物体が発しているのが赤外線です。もちろん太陽も赤外線を放射しています。
温室効果ガスは、この赤外線を吸収し、再放出する性質を持っています。
つまり地球上の表面に温室効果ガスがあることで、太陽から放射される熱を蓄積し温度を上昇させる効果があるのです。
近年、地球温暖化問題で取り上げられることが多い温室効果ガスですが、本来は地球を守るためになくてはならないものです。仮に温室効果ガスがなければ、地球上の平均温度はマイナス19度にもなると言われています。
一方で、近年の急激な地球温暖化は社会の産業化によるものとも言われています。より良い地球環境を維持していくために、各国の温室効果ガスの排出コントロールが急務となっています。
温室効果ガスの種類
二酸化炭素(CO₂)
大気中の温室効果ガスのうち最も割合の多いものが二酸化炭素です。
人間の活動から排出される温室効果ガスのうち、75%が二酸化炭素と言われています。
温室効果ガス世界資料センター(WDCGG)が世界の大気中の二酸化炭素の世界平均濃度の観測データを収集し、解析したグラフがこちらです。世界的に見ても、濃度が年々上昇していることが分かります。
グラフがギザギザしているのは、濃度に季節変動があるからです。二酸化炭素の濃度は夏に減少し冬に増加します。これは植物の光合成が夏に活発になることが影響しています。
<参考リンク>
気象庁 | 大気中二酸化炭素濃度の経年変化(jma.go.jp)(気象庁)
二酸化炭素の排出源は主に化石燃料の燃焼です。国別の排出量を見ると、中国が31.8%で最も多く、次いでアメリカ(13.4%)EU27か国(7.6%)インド(6.6%)ロシア(4.9%)と続きます。日本はそれに次ぐ3.1%です。発電の多くを化石燃料に頼っている日本では、二酸化炭素の排出量削減が急務の課題となっています。
<参考リンク>
1-03 温室効果ガス総排出量に占めるガス別排出量 | JCCCA 全国地球温暖化防止活動推進センター
世界のエネルギー起源CO₂排出量(2020年)(環境省)
メタン(CH₄)
メタンは二酸化炭素に次いで温室効果ガスにおける割合の高い物質です。人間の活動から排出される温室効果ガスのうち18%がメタンと言われています。
排出量の割合が二酸化炭素よりかなり少ないメタンですが、メタンは二酸化炭素よりも温室効果に及ぼす影響が高いため扱いには注意が必要です。二酸化炭素を基準にしたとき、他の温室効果ガスがどれだけ温暖化能力があるかを示した数字のことを「地球温暖化係数(GWP:Global Warming Potential)」と言いますが、これで示すとメタンは28、つまり二酸化炭素の28倍の温室効果能力があることがわかります。
メタンの主な発生源は農地、家畜(牛など)、廃棄物、湿地、化石燃料など多岐にわたっています。18世紀ころまでは700-750ppbの範囲で安定していたものの、人間活動によって急激に増大し、現在では1800ppbを超えるデータも観測されています。一方で、メタンは主にOHラジカルなどの物質との反応で消失することも知られています。OHラジカルによってメタンを消したいところですが、OHラジカルはオゾン(O₃)や窒素酸化物(NOx)とも深くかかわっているためメタン削減のための手法としては難しいと考えられています。メタン削減の有効な方法は現在でも多くの方法が模索されています。
<参考リンク>
主な温室効果ガスの温暖化係数一覧(経済産業省)
温室効果ガス観測技術衛星「いぶき(GOSAT:ゴーサット)」
環境省、国立環境研究所(NIES)、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が共同で開発した世界初の温室効果ガス観測技術衛星「いぶき(GOSAT:ゴーサット)」は、地上から上空までの「地球大気全体(全大気)」のメタンの平均濃度を観測しています。メタンは高度によって濃度差があることから地上からの観測が難しいとされており、全大気の平均像を観測できる「いぶき(GOSAT)」の存在は極めて重要です。
<参考リンク>
GOSAT「いぶき」温室効果ガス観測人工衛星トップページ|温室効果ガス観測技術衛星GOSAT「いぶき」 (nies.go.jp)
一酸化二窒素(N₂O)
一酸化二窒素という言葉自体聞きなれないかもしれませんが、地球温暖化の原因となる温室効果ガスのうち、温暖化をもたらす能力が大きいガスとして注目されているのが一酸化二窒素です。人為起源の温室効果ガスのうち、一酸化二窒素が占める割合はメタンに次ぐ6.2%です。しかし地球温暖化係数(GWP)は265と大変高い数値であるためわずかな量であっても排出の影響は高くなると考えられています。
大気中の一酸化二窒素の約57%は自然起源(海洋や土壌)であり、43%は人為起源です。人為起源の一酸化二窒素のうち、主要な発生源はバイオマス低温燃焼や家畜排泄物、広く農地に散布された窒素肥料ともいわれています。また、麻酔用の笑気ガスの主成分としても知られています。
一酸化二窒素の特長として挙げられるのが、大気中の寿命(影響が小さくなるまでの時間)が約121年と長いことです。一酸化二窒素はそれ自体に温室効果があるだけでなく、オゾン層を破壊してしまうため気候変動を急速に悪化させる懸念もあります。そのため一酸化二窒素の大気中濃度の観測、発生抑制技術には高い注目が集まっています。
<参考リンク>
気象庁 | 一酸化二窒素(jma.go.jp)
気象庁 | 展示室5 大気中一酸化二窒素濃度の変動とその要因(jma.go.jp)
オゾン層を破壊するフロン類・CFC、HCFC類
フロン類とはフルオロカーボン類(Fluorocarbons)のことを指します。フルオロカーボン類は、フッ素、炭素、および水素から成る化合物です。
科学的に極めて安定した性質で扱いやすく、人体への毒性も小さいためエアコンや乾燥機、冷蔵庫や断熱材など身の回りの様々なものに使用されています。しかし、オゾン層の破壊への影響が明らかとなり、近年は使用が抑えられています。
そもそもオゾン層とは、成層圏で有害な紫外線を吸収して地球上の生物を守る役割を果たしています。オゾン層が破壊されると有害な紫外線が地上に降り注ぎ、生物の遺伝子や人体に影響を及ぼします。
しかしながらオゾン層の破壊が地球温暖化につながるかというと、直接的な関係は少ないと言われています。それよりもオゾン層破壊の原因となるフロン類そのものが、非常に高い温暖化能力を持っているとして懸念されているのです。
フロンの地球温暖化係数(GWP)はフロンガスの種類によっても異なりますが、数百倍から1万倍以上と、非常に大きな温室効果を持っています。
CFC(クロロフルオロカーブン)とHCFC(ハイドロクロロフルオロカーボン)は代表的なフロンですが、オゾン層を破壊する塩素原子を持っているため同じフロンでも塩素原子を持っていないHFC(ハイドロフロオロカーボン)が広く使用されるようになりました。しかしHFCはオゾン層は破壊しないものの温室効果が非常に高く、現在ではHFCも規制の対象となっています。(次章で詳しく説明します。)
<参考リンク>
気象庁 | オゾン層とは(jma.go.jp)
気象庁 | フロンによるオゾン層の破壊(jma.go.jp)
温暖化の科学 Q13 オゾン層破壊が温暖化の原因? - ココが知りたい地球温暖化 | 地球環境研究センター (nies.go.jp)
オゾン層を破壊しないフロン類・HFC
オゾン層保護のための国際的な取り組みとして採択された「モントリオール議定書(1987年)」では、オゾン層破壊物質の生産・消費が段階的に規制されました。その結果、CFCやHCFC等に代わる物質としてオゾン層破壊効果がないHFC(ハイドロフロオロカーボン)が広く使用されるようになりました。
HFCはオゾン層破壊効果はないものの、地球温暖化効果能力は非常に高く、地球温暖化係数で見ても特定フロン(CFC・HCFC)と大差ない値を示しています。現在は特定フロン、代替フロン共に段階的な規制が進められています。フロン類の製造を規制する国際的な枠組みであるモントリオール議定書においても、CFC、HCFCに加えて新たにHFCを対象とする改正提案が2016年にルワンダのキガリで採択されました(キガリ改正)。また、温室効果ガスの排出削減について採択された国際的な環境協定である「京都議定書(1997年)」においても、HFCは対象ガスとして排出削減目標が課されています。
日本でも、「フロン類の使用の合理化及び管理の適正化に関する法律」(フロン排出規制法)が平成27年に施行され、令和2年からは改正フロン抑制法が施行されています。これはフロン類の製造から廃棄までを包括的に管理・規制する法律で、メーカーから整備事業者、管理業者、解体事業者、回収事業者に至るまでフロンに対する取り組み方が明確に求められています。
<参考リンク>
地球環境とフロン(環境省)
フロン類対策の現状について(環境省)
フロン排出抑制法(環境省)
オゾン層破壊物質と温室効果ガスの関係
オゾン層を破壊しないフロン類・PFC
PFC(パーフルオロカーボン)もまた、HFCと同じようにオゾン層を破壊する塩素を持たないフロン類です。しかしPFCも強力な温室効果(温室効果係数:6,500倍~9,200倍)を有していることから、さまざまな国際協定で規制の対象となっています。
HFCとPFCの違いをご説明するうえで大きなポイントとなるのが、モントリオール議定書と京都議定書においての扱いです。HFC、PFC、SF₆(六フッ化硫黄)は京都議定書において対象ガスとして排出削減が求められましたが、一方でモントリオール議定書では、HFCのみが対象に指定されています。この背景としては、オゾン層を破壊するフロン類であるCFCやHCFCの代替フロンとしてHFCが急速に使用されるようになったことが挙げられます。HFCそのものにはオゾン層を破壊する性質はないものの、地球温暖化の観点から見れば人類にとって同じく規制が必要と考えられたと推察されます。
HFC、PFCともに性質としてはオゾン層を破壊しない、しかし地球温暖化係数は非常に高いフロン類です。そのためどちらも規制が必要な物質です。しかしこれらの物質なくしては、冷媒と呼ばれるエアコンや冷蔵・冷凍機器の需要に応えることはできません。世界的なコールドチェーンの普及や猛暑時の人命保護の観点から見ても、今後はフロン類とうまく付き合っていくことが大切です。
オゾン層を破壊しないフロン類・SF₆
SF₆(六フッ化硫黄)も、HFCやPFCと同じようにオゾン層を破壊しないフロン類です。無毒・無臭・不燃性の気体で人体に対しても安全かつ安定しているため電子機器や工業製品などの絶縁体や医療用(眼科)の手術材料としても大変広く使用されています。SF₆も京都議定書において削減対象ガスに指定されましたが、SF₆に変わる有効な絶縁ガスがこれまで見つかっていないことから、今後も継続的に使用していく必要があります。
一方でSF₆は大気中の寿命が3200年と大変長く、温室効果係数も23900と極めて高いため、扱いには注意が必要です。SF₆の供給源は人間活動に伴うものがほぼすべてと言われており、今後は代替ガスや新技術の開発が急務とされています。
<参考リンク>
六フッ化硫黄(SF₆)について(気象庁気象研究所)
温室効果ガス削減のために企業ができることとは
温室効果ガス削減のために企業ができることには何があるでしょうか。温室効果能力の高いフロン類を扱う企業であれば、フロン排出規制法に基づいてしっかりと管理や処理を行うことが求められています。
また、メタンや一酸化二窒素については農業や畜産業とのかかわりが深いため、農林水産省が様々な対策や支援を発表しています。
多くの企業にとって、最も対策をしやすい温室効果ガスは二酸化炭素です。
この章では企業が取り組みやすい温室効果ガス削減対策について解説していきます。
<参考リンク>
農林水産分野における地球温暖化対策(農林水産省)
再生可能エネルギー(クリーンエネルギー)の導入によるCO₂の排出削減
太陽光発電をはじめとした、再生可能エネルギー由来の電力を利用することは、企業が最も取り組みやすい温室効果ガス削減対策の一つです。太陽光発電の他にも、水力発電や風力発電、バイオマス発電、地熱発電などがありますが、ひとつの企業単位で設備を導入できるのは太陽光発電が最も現実的と言えるでしょう。
近年では脱炭素経営やESG経営といった温室効果ガス削減と経営が深く結びついたワードも注目されています。その手法や事例については当サイトでもご紹介しております。近年はカーボンニュートラルに向けて政府も様々な補助金や支援を公表していますので、再生可能エネルギーが導入しやすいのもポイントです。
また、電気代の高騰も再生可能エネルギー導入を後押しする要因の一つです。大きな電力を消費する工場などには、今後ますます導入メリットが大きくなっていくことでしょう。
太陽光発電の中でも、特に自家消費型の太陽光発電が注目を集めています。発電した電力を自社で消費することにより電気代を抑えることができます。また、災害時には地域の非常電源としても活用することができるため、SDGs(持続可能な開発目標)やCSR(企業の社会的責任)の観点から太陽光発電を導入する企業も増えています。
節電・省エネ対策によるCO₂の排出削減
太陽光発電などの再生可能エネルギー導入のほかに、使用する電力そのものを抑える省エネや節電も温室効果ガス削減に貢献します。
企業が取り組みやすい節電対策の事例
・蓄電システムを導入し深夜電力を活用する
・デマンド監視をして最大電力をモニタリングし低減に努める
・設備更新をして効率を良化する
・工場の操業時間や生産プロセスにおける運用改善を行う
・照明や空調などのこまめな節電
・社員の休暇を見直す
例として上記のようなものがありますが、事業内容によっても取り組みやすい節電対策は異なりますので、身近で対策できそうなものから始めてみることがおすすめです。電力のモニタリングなどが定着し、社内に省エネマインドが醸成されれば、自然と節電が身につき電気代の削減にも繋がります。工場など大きな電力を使う企業様においては、アイデアひとつでインパクトの高い節電効果が実現できることもありますので、もしご興味がおありでしたらお気軽に弊社にご相談ください。
ガソリン車の利用見直し
多くの企業が利用しているガソリン車を見直すことも、有効な温室効果ガス削減対策になります。
EV(電気自動車)の導入には地方自治体が補助金や支援を公表していますので、各自治体のサイトや次世代自動車振興センターのサイト(※1)を利用して支援制度をご活用されることをおすすめします。自治体によっては、中小企業などの事業者(法人)や個人事業主も対象となる場合があります。公的な補助金は予算に上限があり、申請の受付と交付は先着順の場合も多いので、余裕をもってチェック・申請することが大切です。
また、トラックやタクシーなど緑ナンバー、黒ナンバーの事業用車両の電動化について、令和5年度からは新たに「商用車の電動化促進事業」が国土交通省・経済産業省の連携事業として創設されました。この事業はトラックやタクシーなどの商用車を集中的に支援するもので、トラックは標準的燃料水準車両との差額の2/3、タクシーは車両本体価格の1/4が補助されます。
近年は特にガソリン車の利用見直しについて補助金が多く公表されていますので、ぜひご検討の材料とされることをおすすめします。
※1:一般社団法人次世代自動車振興センター
<参考リンク>
商用車の電動化促進事業(経済産業省、国土交通省連携事業)
事例:株式会社山王様の「太陽光発電システム+蓄電池+EV充放電器」による複合型再生可能エネルギーシステム導入
福島県郡山市で電子部品の精密プレス加工および金型製作を行っていらっしゃる株式会社山王様は、EV活用、さらなるCO₂削減へ向けての強化対策、また東日本大震災の経験を活かしたBCP対策として複合的な再生可能エネルギーシステムを導入されました。
以下に事例の詳細をご紹介しておりますのでぜひご覧ください。
ニュース - 株式会社山王様へ「自家消費型太陽光発電・蓄電池・EV充放電器を組み合わせた再生可能エネルギーシステム」を導入|オムロンフィールドエンジニアリング(omron.com)
温室効果ガス削減に向けて取り組みをはじめましょう
温室効果ガスについて、またその削減方法について解説してまいりました。各企業において温室効果ガスとの向き合い方は様々で、まずはできることからはじめる、という場合が多いかもしれません。国や地方自治体が積極的に補助金や支援を公表している今は、取り組みを始めるよい機会です。この記事が温室効果ガスの理解に貢献し、削減への第一歩を踏み出すきっかけになれば幸いです。
【執筆者情報】
脱炭素ソリューション.com 編集部
脱炭素ソリューション.comが運営する「エネタメ」は、オムロン フィールドエンジニアリング株式会社のエネルギーマネジメントに関する豊富な実績とノウハウを活かした専門的な情報や、再生可能エネルギー、蓄電池、災害対策、省エネソリューション、補助金などのコンテンツを中心に、脱炭素化/カーボン・ニュートラルの取り組みに役立つ情報を発信しています。