FIP制度のプレミアムとは?
概要や算出方法、売電収益拡大のポイントをわかりやすく解説!
FIP制度のプレミアムについて徹底解説!
INDEX
はじめに:FIP制度とは?FIT制度との違いやポイントを解説
FIP制度(フィード・イン・プレミアム制度)は、再生可能エネルギーの普及を目的として従来のFIT制度(固定価格買取制度)から移行した新たな電気買取制度です。2020年6月に導入が決まり、2022年4月から開始されました。この制度は、太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギーの導入を促進するため、再エネ発電事業者が市場価格に連動してインセンティブ(補助金)を受け取る形となっています。
また、それまでのFIT制度よりも自由な市場競争に適応する内容となっています。
そもそもFIP制度の前段階として、電力を固定価格で買い取る「FIT制度」がありました。2012年にスタートしたFIT制度は、再生可能エネルギーの導入を急速に拡大させました。その一方で、電力を固定価格で買い取るという性質上「国民負担の増大」や「電力の需要と供給バランスが考慮されにくい」などの問題を抱えていました。
そのようなFIT制度の課題を解消する形でスタートしたのがFIP制度です。
FIP制度の概要については、こちらの記事で詳しくご説明しておりますのでぜひご覧ください。
2050年のカーボンニュートラルに向けて、特に製造業など電力の活用が重要な要素となる産業ではシステムの見直しやエネルギー転換が急務となっています。PPA(電力購入契約)などの関連制度の活用も含め、長期的な再生可能エネルギー供給の安定を目指している事業者様は少なくないでしょう。
今回は、FIP制度の中でも特に注目度の高い「プレミアム」について、概要や算出方法などをわかりやすく解説して参ります。
FIP制度の事業収益のしくみと用語解説
FIP制度は電力の市場価格にプレミアム(補助額)が上乗せされるため、市場価格よりも高く売電できます。FIT制度では買取価格が”固定”でしたが、FIP制度では市場価格によって売電価格は上がったり下がったりします。
なぜこのように段階的に制度が変化してきたかというと、将来的に再エネ電力を火力発電などと同じように電力市場で取引できるようにするためです。現状FIP制度ではプレミアム(補助額)がつきますが、ゆくゆくは補助額無しに、自立した電力として市場販売することが目標とされています。FIP制度はその過程における中間的な制度です。
さてそんなFIP制度ですが、実際にFIP事業者として参入した場合、どのようにして利益を得ていくのでしょうか。
FIP事業の収入は、①市場販売収入 ②プレミアム の2種類があります。この2つを足したものから、③バランシングコストを引いたものが、FIP事業収入になります。
①市場販売収入 + ②プレミアム - ③バランシングコスト =FIP事業収入
市場収入(市場販売収入)とは?
市場収入とは、再エネ由来電気を卸電力市場(JEPX)で販売した際の利益のことです。電力市場では、電気そのものだけでなく「非化石価値」も売ることができるので、市場収入としては「電気収入」と「非化石価値収入」の2種類があります。
▼卸電力市場についての詳しい解説はこちら
非化石価値とは?
非化石価値とは、再エネのような「発電時に二酸化炭素を排出しない方法で作られた電気」について与えられた環境的な価値のことです。非化石価値は証書という形で可視化されるため、電気とは別に非化石価値だけを販売することができます。
なぜこのようなしくみになっているかというと、そもそも電力は二酸化炭素を排出する方法で発電された電気も、二酸化炭素を排出しない方法で発電された電気も取引市場では一緒になってしまうためです。電気を買う側(需要家)は、再エネ由来の電力だけを選んで買うということができません。そこで、電力と環境価値を切り離して別々に販売するという仕組みができたのです。
プレミアムとは?
プレミアムとはFIP制度において、市場価格に上乗せして支払われる補助額のことです。このプレミアムにより、FIP事業者は市場販売価格より優遇された形で売電収入を得ることができます。このプレミアム価格は「基準価格(FIP価格)」と呼ばれる価格との調整により決定します。基準価格というのはのちの章で詳しくご説明しますが、簡単に言うと再エネ発電事業者の設備投資回収費用と、その他の事情を勘案して定められた価格です。
再エネ事業者は発電設備に対して多額の投資をしています。そのため、すでに発電設備が整った既存電源と比較すると回収にかなりの時間がかかってしまいます。その分をプレミアムで補うことによって、再エネ電源の普及を促しているわけです。
バランシングコストとは?
バランシングコストとは、「電気をこれくらい納めますよ」という計画値と、「実際にこれだけ発電しました」という実績値との乖離(インバランス)があった場合に、その差を補う費用のことです。
そもそも電気は、計画通り納められること(発電されること)が非常に重要です。計画より多すぎても少なすぎてもいけません。電気の需要と供給のバランスが狂ってしまうと、大規模停電につながる恐れがあるからです。これは電力供給における大切なルールであり、インバランスを発生させた発電事業者にはペナルティが課されます。
しかしそのような背景を考慮したうえでも、そもそも自然現象に左右される太陽光発電は発電量の予測は難しいのが実情です。FIT制度下では再エネ発電事業者にはインバランスのペナルティが免除されていました。一方でFIP制度下ではより電力卸市場に即したルール下での運用が求められ、再エネ発電事業者にもインバランスのペナルティが求められることになりました。
ただ、急にすべてのインバランスペナルティを課すことは現実的に難しいため、プレミアムの中にバランシングコストが加味される形で交付されています。
プレミアムコストはどのように算出される?
どのくらい優遇されるのか算出方法を解説!
プレミアム補助額の算出方法
FIP事業者の事業収入は市場販売収入にプレミアムを加えた額からバランシングコストを引いた額で算出されますが、プレミアムの額そのものは基準価格から参照価格を引いた額に、発電量(kWh)をかけた額で算出されます。
このとき、「基準価格 ー 参照価格」がマイナスになってもマイナスのまま計算するのではなく、0として計算されます。また、参照価格そのものがマイナスの値になったとしてもプラス(基準価格に上乗せされる値)にはなりません。
このことを踏まえたうえで、基準価格と参照価格について詳しくご説明していきましょう。
基準価格(FIP価格)とは?
基準価格は、再生可能エネルギーの発電設備の建設コストなどから算出された投資回収費用を考慮して導き出された価格です。この基準価格から今年の見込み価格である参照価格を引いてプレミアムが算出されるため、参照価格(本年の見込み価格)が基準価格を下回った場合でもプレミアムが発生し基準価格が保障されることとなります。
基準価格は20年間固定となります。
<参考リンク>
再生可能エネルギーのFIT制度・FIP制度における2023年度以降の買取価格等と2023年度の賦課金単価を設定します(METI/経済産業省)(経済産業省)
参照:買取価格・期間等|FIT・FIP制度|なっとく!再生可能エネルギー (meti.go.jp)(資源エネルギー庁)
参照価格とは?
参照価格とは市場取引などにより期待される収入のことで、前年度の年間平均市場価格などから算出されます。つまり参照価格は、「今年はこれくらいの価格で売れそうだ」という見込み価格になります。
前段でご説明した基準価格は「発電事業のコスト回収にはこれぐらいは必要だろう」という予想価格でしたから、参照価格が基準価格を下回ってしまうと事業収益としてはマイナスになる恐れが出てきます。それをカバーするのがプレミアムというわけです。
参照価格が基準価格を下回った場合、プレミアムが発動します。これで基準価格相当の収益が保障されます。逆に参照価格が基準価格を上回った場合はプレミアムは発動しません。
プレミアム価格の決定は市場取引が終わってから
ここまでの解説をご覧いただいた方には基準価格と参照価格のおおよその意味がお分かりいただけたかと思いますが、基準価格は固定であるため、プレミアム価格が発動するかどうかに関わっているのは参照価格となります。この参照価格は前年度の年間市場平均価格(一年間に実際に取引された価格の平均価格)をベースに、”当年度”の月間平均市場価格も加味して算出されます。つまり、当年度の月間平均市場価格が出ないと参照価格は算出されず、プレミアムも算出されません。
何をお伝えしたいかというと、プレミアムは事前に確定するものではなく、当月の結果が出た後に確定するものだということです。
「プレミアムが多くつきそうだから今月は多めに発電しよう」とか、「今月はプレミアムがないから発電をやめよう」という予測を立てることはできません。しかし重要なのは基準価格(回収コスト)が確保できる点です。この点がFIP制度における優遇の特徴と言えるでしょう。
FIP事業で収益は出る?利益が出るポイントを詳しく解説!
FIP事業で利益が出るパターン
自然相手の再エネ電源が電力市場に適応していくことは難しい面もありますが、FIP制度はある程度設備への投資コスト回収を保障してくれる心強い味方です。
そのような仕組みの中でFIP事業による利益を確保するには、プレミアムよりも市場販売価格に目を向けていくことがポイント。市場価格が高い時に売電をしていく仕組みづくりが重要です。
これは買取価格が固定されていたFIT制度下では実現できなかったことであり、FIP制度になってで初めて可能となった収益拡大のチャンスと言えます。
FIP事業で利益が出ないパターン
投資コストがプレミアムによって一定額保障されるFIP制度ですが、必ず利益が出るというわけではありません。気を付けなければいけないのはバランシングコストです。
前章でもお伝えしましたが、バランシングコストは発電の「計画値」と「実績値」に一定以上の差が出た場合にペナルティとして払うコストです。
計画通りに発電ができなかった場合には、せっかく得た収益がバランシングコストにより相殺されてしまうため注意が必要です。
また、FIP制度は市場価格(売電価格)が変動するため、売るタイミングによっては利益が得られないことも考えられます。太陽光発電は季節や天候によって発電が思い通りにならないこともあるため、蓄電池などの活用も視野に入れてコントロールしていくことが大切です。
アグリゲーターの活用がFIP事業成功のカギ
前段ではFIP事業で利益が出るパターン・出ないパターンをご紹介しました。
しかしながら、本業ですでに忙しいのにこまめに売電価格をチェックして利益を拡大する…というのは現実的でないと考える方もいらっしゃるかと思います。
そんなときに活躍するのがアグリゲーターと呼ばれる、売電の仲介業者です。
アグリゲーターをうまく活用しながら売電収入を確保することで、安定した運用と再生可能エネルギー(主に太陽光発電)のメリットを享受することができます。
太陽光発電は災害や環境への配慮だけでなく、将来的な電気代高騰対策への備えとしても大変有効です。FIP制度を有効活用することで、事業的なリスクを低減しながら再エネ活用への転換を図ることができます。
アグリゲーターとは?活用と選定のポイント
アグリゲーターの役割とバランシンググループ
FIP制度が導入された結果、発電事業者には収益の拡大チャンスが与えられたと同時に、価格変動やバランシングコストへの対応が余儀なくされました。
こうした複雑な対応は、大規模な発電事業者であれば可能ですが、ひとつひとつの事業者単位では対応が難しいというのが実情です。
そこで登場するのがアグリゲーターです。アグリゲーターは、発電事業者を取りまとめ、一括で電力卸市場への売電を行います。
①計画値通りに売電を行うこと(バランシングコストの低減調整)
②高需要帯での売電を行うこと(高い市場価格での販売)
の2つを代行することで、インバランスリスクを減らしながら利益を重視した売電を目指します。
アグリゲーターはバランシンググループという、複数の発電事業者から構成されたグループを持っています。同じ供給区域内で小規模の発電事業者が集まってひとつのグループを形成することで、需給量の調整やインバランスリスクへの対応をまとめて行っています。
アグリゲーターが自ら発電事業を行っている場合もあり、バランシンググループの安定性が高いほど、売電による利益拡大が望めると言えそうです。
アグリゲーター活用のメリット
アグリゲーターのメリットはなんといっても複雑な売電を代行してくれる点です。FIP制度下では売電による利益拡大のチャンスが生まれたと同時に、インバランスリスクも考慮しなくてはなりません。自然を相手にした太陽光発電を運用しながら、利益重視・計画重視の売電を実現することはかなり難しいため、アグリゲーターの活用はFIP活用の要とも言えるでしょう。
アグリゲーター活用のデメリット
アグリゲーターのデメリットは手数料がかかることです。せっかく売電で利益が望めると思ったのに、アグリゲーターへの手数料で相殺されてしまうのはなんとももったいないと感じられるかもしれません。しかし、現状ではアグリゲーターを活用せずに売電の収益の獲得を目指すことのほうがリスクは高いと言えます。
再生可能エネルギーの導入メリットは売電収益だけではありません。カーボンニュートラルへ向けた脱炭素経営の実現、災害リスクに対するレジリエンス能力の向上、電気代高騰対策や地元コミュニティへの還元など、総合的・多角的に見た時のメリットを考えると、アグリゲーターを活用してもなお得られるメリットのほうが大きいということもできるのです。
オムロン フィールドエンジニアリングのアグリゲーションビジネス
オムロン フィールドエンジニアリングでは、オムロンが長年培ったセンシング&コントロール技術(人やモノの状態・情報から必要なデータを収集し、それに基づいた適切なソリューションを提供すること)によって高度な需給予測・制御を行います。
また、大型蓄電池の数多い導入実績を活かし、最適で安定的な制御を行います。
FIP運用にかかる業務(計画値同時同量管理・JEPXへの売電・インバランスリスクへの対応)はもちろんのこと、FIP収益を最大化するための蓄電池の充放電制御、蓄電池の保守メンテナンスや蓄電池危険物の保安業務まで一括してお任せいただくことができます。
特に、蓄電池とEMSを活用した売電単価を最大化するソリューションにおいては多くの実績があり、FIP期間中の平均売電単価が75円となるケースも存在しています。(※事業者様設備の諸条件によります)
投資回収スピードの最大化を目指し多くのお客様にご採用を頂いております。
また、出力制御が投資回収計画に大幅な影響を与えているとお悩みの事業者様にも当社のシミュレーションをご覧いただくことで収益構造の転換をご検討いただけます。
詳しいご説明をご希望の事業者様は、お気軽にお問い合わせください。
まとめ:アグリゲーターを活用することでFIP事業の利益最大化を
いかがでしたでしょうか。カーボンニュートラルの実現に向けて、再生可能エネルギーは市場への適応の真っただ中にあります。FIP制度はその一環となる政策です。
再エネの市場適応は日本だけでなく世界中が果たさなければならない喫緊の課題です。
再エネが電力市場へ適応を果たした時、早期から再エネ市場へ適応をしていた事業者はよりスムーズにビジネスを展開できる可能性が高くなります。
FIP制度、アグリゲーターを活用することで、利益重視の再エネ転換をご検討ください。
【執筆者情報】
脱炭素ソリューション.com 編集部
脱炭素ソリューション.comが運営する「エネタメ」は、オムロン フィールドエンジニアリング株式会社のエネルギーマネジメントに関する豊富な実績とノウハウを活かした専門的な情報や、再生可能エネルギー、蓄電池、災害対策、省エネソリューション、補助金などのコンテンツを中心に、脱炭素化/カーボン・ニュートラルの取り組みに役立つ情報を発信しています。